性癖博覧会萌茶・作品用

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「涙を流して」 - 真坂

2023/04/02 (Sun) 00:19:35

 うるうると、今にも零れ落ちそうな涙が湛えられた、蜜色の瞳。
「……っ、ぁ……はっ……」
 漏れ出るあえかな声は少し掠れていて、それを必死に堪えようとするもののーー
「はぶしっっっ!!」
「あーあー……ハイ立香さん、テイッシュ」
「うー……ありがと、ロビン……」
 生理現象には逆らいきれず、盛大なくしゃみを放った立香に、ロビンフッドは苦笑を浮かべながら肌に優しいティッシュを箱ごと差し出した。
 それを受け取った立香はぐすぐすと鼻を鳴らしながら一枚引き出すと同時に、顔の半分を覆っているマスクを引き下げる。そこから出てきた鼻の頭は、鼻のかみ過ぎですっかり赤くなっていて、可愛らしくも痛々しい。更には滲んでいた涙も、さっきのくしゃみの衝撃でツゥと流れ落ち頬を濡らしていた。
「うぅ……辛い……花粉、憎い……」
「とうとう立香さんも、その憎しみを覚えちまったか……」
 そう、ロビンフッドの可愛い愛しい奥さんは、今年花粉症デビューを果たしてしまったのだ。
「ロビン、毎年こんな思いをしてたの?よく発狂してないね?」
「まぁ日本に来て初めてなった年は、自分でもそう思いましたがね。薬も色々出てきたし、合うヤツをちゃんと飲んでればそうでもないですよ。立香さんも合う薬が見つかれば、だいぶマシになると思いますけど」
 とうとうボックスティッシュを胸に抱えたまま額を押し付けてくる立香に、その鼻の頭を撫でてやりながらロビンフッドは宥めるように、甘やかすようにそう語りかける。こすられ過ぎた肌は妙なつるつる感を指先に伝えてきて、後で軟膏を塗ってやらねぇと、と頭に隅に書き留める。
「アスクレピオス達にはすっごいお世話になってるけど、こういう時はちょっと困るよね」
「まぁまぁ、あの人達は患者の健康に命をかけてるようなもんだし。結果的には立香さんのためにもなるんだから、ちったぁ我慢ですぜ」
「ロビンは普通に市販薬飲んでるくせに……」
「立香さんには効かなかったんだからしょうがないっしょ」
 既に花粉症だったロビンフッドが服用している薬が家にあったので、立香も最初はそれを飲んだのだが、さっぱり効果がでなかった。それで仕方なく友人でもある主治医に診てもらったら、まず自己判断で薬を飲んだことをしこたま怒られ、彼女の体質に合う薬を用意できるまでは勝手なことをしないよう厳命されたらしい。おかげでそれまでこうやって、マスク等で物理的に花粉を避けるしか対処法がなく、当然それにも限度があって顔をぐしゅぐしゅにしているわけである。
 立香の過保護な友人達は、基本ロビンフッドにとってはライバル的な存在になるのだが、さすがに医療なんて専門的な部分では太刀打ちできないし純粋にありがたいので、こればかりはロビンフッドもあちらの味方だ。
「ロビンだって、この辛さはわかってるのにー……」
 それを感じ取った立香は、不満そうにジトリとロビンフッドを睨みつけてくる。その瞳にはまたじわじわと涙が滲んできて、ツゥと流れ落ちた。それを拭って擦ろうとする手を押さえて、代わりにちゅうとその目元に唇を落とす。
「あんまり擦るなっつったでしょ」
「だって、かゆい……」
「ホットマスクでも作ってきます?ちっとは気が紛れると思いますけど」
「……もうちょっとしたらお願いしてもいい?」
 ちゅ、ちゅうと涙を吸い取って、辛さを慰めるように髪や背中を摩っていると、立香の方からもきゅうと抱き着いてくる。
 それをゆるく抱き返して、「了解」と答える声音に喜色が乗り過ぎないよう、ロビンフッドは慎重に声を出した。
 正直言って、この状況はめちゃくちゃに幸せでしかない。
 立香が辛い思いをしているのはかわいそうなのだが、その辛さのせいでいつも以上に甘えたになっているのは、ロビンフッドにとってご褒美も同然だった。自身も散々苦しめられているというのに、花粉症様々とか思ってしまうくらいには。
 特にこの潤んだ瞳を明るい昼間で見れるのは、滅多にないことだった。ロビンフッドの奥さんは恥ずかしがりなので、夜の明かりを小さくしたベッドの上でないとなかなか許してくれない。いまのうちにしっかりと目に焼き付けておかないと。

 そうやって、心の中だけでそんな僥倖を噛み締めて、ロビンフッドは再び潤んだ蜜色をうっとりと覗き込む。
 欠点といえば、気分が盛り上がってもマスクが邪魔だし、鼻が詰まって苦しいからとキスをさせてもらえないことくらいか。

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