性癖博覧会萌茶・作品用

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赤の他人 - アナコンダ

2022/10/16 (Sun) 00:05:28

「トラップの話?」
 ひょこ、とちかちかの橙色が割り込んでくる。無邪気にサイドテールを揺らし、目をきらきらさせながらオレとマンドリカルドの顔を交互に見てくる。
「! う、うっす! どんなトラップが嫌かって話を……」
「へー! わたしも気になる!」
「いやいや、オタクは別に興味ないっしょ」
 酒を煽りつつそう返せば、ぷぅ、と頬を膨らませる。エリザベート顔負けの子どもっぽい表情に「あーあー」と思いつつも首を横に振った。
「第一、酒飲みまくってる輩の側に寄るもんじゃねぇよ。ほらオタクはお嬢のとこに行きな」
「お酒は飲めないけど、話ぐらいはできるもん」
「マスターもトラップとか気になるんすか?」
 余計なことを言わんでいい。人の良いライダーをぎろりとひと睨みすれば、ぴゃっと飛び上がってしまった。「こらー!」とマスターに叱られる。へいへい、今のはオレが悪かったですねー。
「興味もない話にむやみやたらと首突っ込むより、子どもは子どもらしく寝た方がいいんじゃねぇか、って話ですわ」
「わたし一応マスターなんだけど!?」
「マスターだからこそ、ですよ」
 はぁ、と溜息を吐きつつ答えれば、ぐぬぬと言葉を詰まらせる。そんなオレとマスターの間に入ってしまったマンドリカルドは、おろおろとオレ達の顔を交互に見つめる。
「え、ええと、その、ふ、二人はそんな言い合えるくらい気安い関係なんっすね!? …………いやすんません今のは間違ってました勝手なこと言いましたマジで勘違いで見当違いなこと言ってほんっとマジでさぁっせん!」
「いやそこまでは言ってねぇよ」
「気安い……というか、本当に一番最初の召喚の時に来てくれたからね、ロビンは」
 付き合い長いんだ、というマスターの顔は、なぜだかほんのり赤らんでいた。酒も飲んでいないのにピンク色に染まったそれは、宴会場の灯りを受けてきらきらと煌めいていた。ぐび、と酒を飲み干してじぃと彼女を見つめる。
「付き合い長いだけの、赤の他人ですよ」
 だから、オレは言う。言いながらジョッキを置いて、今日はもうおしまいだ、と言わんばかりに立ち上がった。
「トラップの話はまた思い出したら聞かせてくれや。じゃーなー」
 軽く声をかけ、マントを持ち上げてその場から立ち去る。カツカツカツ、という自分のブーツの音からふた呼吸遅れて、別の足音が重なった。それでも立ち止まらない。ようやく立ち止まったのは、宴会場の喧騒がほとんど聞こえなくなるくらい、遠く離れた時。
「い、今のは、ひ、ひどいんじゃない……っ!?」
 オレの早歩きに付いてきた彼女は、息を切らせていた。ぜぇはぁと荒い息を吐き、はっはっは、と浅く息をして、少し潤んだ目でオレを見上げてくる。
「赤の他人って……! マスターとサーヴァント、じゃない……!」
「マスターとサーヴァントなんざ、契約で縛られただけの赤の他人でしょう」
 あっさりと言い返せば、彼女はまたぐっと泣きそうな顔をした。それでも泣かなかった。泣かない代わりに唇を噛み締め、滲んだ瞳でオレを睨みつける。

 きっと、言いたいことは山ほどあるのだろう。
 たくさんありすぎて何も言えない。何も言えないけれど、百の言葉よりも彼女の瞳は雄弁だった。何も言わなくてもわかる、なんてのは夢物語だと笑っていたオレにさえも、伝わるようなまっすぐさ。

「ロビンにとっては赤の他人でも、わたしにとっては――ッ!?」

 なにかを喋っていた彼女の顔に自分の顔を近づけ、少し乱暴に、己の唇を重ねる。
 走って急いでいたせいで彼女の唇は渇いていた。逆にオレの唇は酒で湿っていた。ふたつの温度が重なり合い、全く違うそれが心地よくて思わずぢゅう、と強く吸ってしまう。初めてだというのにキスはあっという間に深くねちねちとしたものに代わり、オレは彼女の唇を食む。にゅる、にゅる。お互いの唾液であっという間にとろとろになってしまったそこに舌を這わせしっかり味わう。驚いて開いた唇を割拓き捻じ込んで舌を捕まえにゅちゅにゅちゅと舌を絡めるキスも。彼女の舌が苦しそうにオレを押しのけたところでようやく止まった。

「知ってました? マスター」
「ひ、ぁ」
「どんな関係も、最初は赤の他人から始まるんですよ」

 オレは笑っていた。笑って、彼女に言っていた。

 さて、赤の他人で終わるか、それとも別の名前になるか。
 そんなもん、これからオレの部屋にアンタが入れば簡単に変わるんですよ、立香。

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